「ナイン THE MUSICAL」(2) 想像力を刺激するツボ | ■RED AND BLACK extra■舞台と本の日記

「ナイン THE MUSICAL」(2) 想像力を刺激するツボ

昨日の記事 では、「ナイン」のストーリーを追いながら、それに今ひとつ乗り切れなかった不甲斐なさを書いた。愛憎相半ばする男と女たちをあれだけ目の前にしていたというのに、自分の感受性の乏しさが情けなくもある。周りでは、泣いている人も多かった。特にラスト近く、グイードがいよいよ生きるのをやめようとしたとき、9歳のころの自分がやってきて微笑みかけるシーン。当たりかまわず錯乱するグイードの姿に、客席からすすり泣きが聞こえた。自分はただ呆然と、我を失ったグイードを観ていた。

 

さて、そんな私にも楽しみを与えてくれた「ナイン」観劇のツボを少し紹介したい。

自己流なので、あくまでご参考として。


◎ヘアメイク・衣装おたくは迷わず観るべし


古風でコケティッシュ、愛らしいのに優雅で上品。オードリーに代表されるような1960年代の空気がいっぱい詰まったファッションは、見ているだけで幸せだ。ありがたいことに超前方席だったので、メイクをじっくり観察できてうれしかった。特に魅力を感じたのは、愛人カルラ。役柄上、一番セクシーないでたちなのだが、ぶっといアイラインにべったりネイビーのアイシャドウ、目を隠してしまうほどのバサバサまつげで、「これが色気ってもんよ!」と堂々と彼女らしさをアピールしていた。服はすけすけ、ぷりっとしたヒップも見えちゃっていいのかな…と目のやり場に困ったりもしたけど、いやらしさは感じなかった。むしろ可愛い。これも、カルラの健気さを大事に演じた役者さん(池田有希子さん)の力量だろう。グイードとの関係が結末を迎えたとき、こんな格好のまま悲しい歌を歌いながら、マスカラの黒い涙を流していたところ、目が離せなかった。

パンフレットには、キャスト一人につき1ページ割いて全身写真が載っているけれど、物足りない。こんなに手の込んだメイクなんだから、写真をアップにして、一人ひとりの顔をもっとよく見せてください! 宝塚のパンフのように、鼻筋の描いてある線、まつげの1本1本までじっくり観察したいほど、「ナイン」のメイクが好きなのです。


◎シーツにくるまって、カルラご登場の場面


これから観る人のために、具体的な説明はやめておくが、アクロバティックな動きにもびっくりするし、グイードになまめかしくまとわりつく仕草も素晴らしい。でもご退場のとき、あれはどうやって固定しているのだろう。お尻をひっかけているだけじゃないよね?


◎水の意味、砂の意味


2幕では、舞台が水で満たされる。壁面の絵から水がにじみ出て、床が池のようになる。そこをばしゃばしゃ役者さんが歩くもんだから、前から1~2列めくらいまでは水しぶきが飛んでくることも。さてこの水、どんな意味があるんだろう。そこがスパだから。水の都ヴェニスの話だから。過去を水に流そうとする気持ちの象徴…。答えは分からないけど、私には全員の涙のように思えた。これだけの涙が出ても不思議じゃないくらい女たちを泣かしたでしょ、ねぇグイード! でも彼自身もめそめそしているから、手に負えない。


9歳のとき、グイードに女の扱いをおしえたサラギーナおばさん。高く掲げたカップから赤い砂を、砂時計のように落とすシーンがある。沈黙の中、砂が落ちる音だけがしばらく続く。あの砂は何を意味しているのか。デビッド・ルヴォーの回答は、「ほぼ日刊イトイ新聞」 の「ナイン」コーナー第27回に載っている。ちなみにサラギーナを演じる田中利花さんは、冬のレ・ミゼラブル大阪公演でマダムテナルディエを演じる方です。


◎水もしたたるキャストの写真


主催のtptのホームページで「ナイン」>「cast & character」をみると、キャストの写真が載っている。小さくて見えにくいかもしれないけど、みんな水もしたたるいい男&女に映っている。濡れてしめり気を感じさせる顔と背景は、たしかに「世界一セクシーなミュージカル」のパンフレットにふさわしい。この写真も拡大版で見たいな。


◎宝塚版「ファントム」と同作者


作者のアーサー・コピット、作詞作曲のモーリー・イーストンは、昨夏に宝塚宙組が公演した「ファントム」をつくった人でもある。そういえばあの「ファントム」でも、主人公の少年時代が物語のカギを握っていた。



おまけ:
パンフレットを買ったら、「満足」ブランドのストッキングがもらえました。衣装協力の福助が提供とのこと。パンフレットは1500円。この内容にしては、ちょっと強気なお値段ね…と思ったけど、ストッキング代(普通に買えば税抜500円)を差し引けば1000円ということになります。それなら、まぁいいかな。