「愛と哀しみのルフラン」想いはいま、客席をめぐる | ■RED AND BLACK extra■舞台と本の日記

「愛と哀しみのルフラン」想いはいま、客席をめぐる

(読んだ本)

「愛と哀しみのルフラン」 著:岩谷時子

講談社文庫 1986年


(感想ここから)
「愛と哀しみのルフラン」は、作詞家・岩谷時子氏による随筆。「ルフラン」とは、詩または音楽で、同じ言葉やメロディーを繰り返すことをいう。リフレインとも呼ばれる。


「舞台と本の日記」と題するblogを立ち上げたのに、いままで本の話を取り上げてこなかったのは、この本を最初に紹介したかったから。当初は5月末にでも感想を書こうと思っていたのだけど、きれいな優しい文章を急いで読むのがもったいなくて、毎日ゆっくり数ページずつめくっていった。やっと今日、最後までたどりついた。


このblogを読んでくださっている方の多くがおそらく親しんでいるであろう、「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」などの訳詞を手掛けた岩谷氏。両親の愛情を一身に浴びながら宝塚歌劇を観て育った子ども時代、宝塚歌劇団に就職したのち越路吹雪さんのマネージャー・親友として苦楽を共にした日々、そして越路さん亡きあとの心の風景や、芸能界で交流のある人々の話などがつづられている。


ミュージカルの訳詩についても、少し触れられている。演出家がどんな歌詞を求めたか、新しい作品に向かうときの心境はどんなものか。具体的な作品名は出てこないが、きっとレミゼの仕事もこんな厳しさだったのだろうと思わせる。日本のミュージカル黎明期に、質の高い舞台を求めて努力し続けた越路吹雪さんや岩谷氏の存在があってこそ、今日の水準がある。


「人生とはしょせん、『愛と哀しみのルフラン』ではないだろうか」と岩谷氏。文学少女、編集者、マネージャー、作詞家という歩みの中で、たくさんのよろこびが訪れたであろう反面、心を痛めることも何度となくあったことがこのエッセイから読み取れる。そうした想いはいま、ミュージカルの歌詞となって客席をめぐり、観客の心に響き続けている。岩谷氏の美しい歌詞が生まれた背景を知りたい方には、ぜひお勧めしたい1冊。


つぶやき:
現在、この本の新品を手に入れるのは難しいようです。私はアマゾンのマーケットプレイス(古書の個人売買コーナー)で買いました。


るふらん