タナボタ企画『魅せられて日本』(1) | ■RED AND BLACK extra■舞台と本の日記

タナボタ企画『魅せられて日本』(1)

出演

(タナボタ企画)林アキラ、岡幸二郎

(ゲスト)伊藤恵理、堀内敬子

構成・演出…忠の仁(タナボタ企画)


行ってまいりました。

タナボタ公演、これまで笑いすぎて涙が出たことはあるのですが、今日は不覚にも歌声に涙腺を刺激されてしまいました。こんなはずじゃなかったのに…。 でも、期待をはるかに上回って満足。日本ミュージカル界のトップクラスを誇る歌のレベルに、あり余るほどのエンターテイナーぶりが加わっている、ぜいたくなこの企画、毎回楽しみにしています。


ミュージカルのナンバーでつづる通常のタナボタ公演とは趣を変えて、今回は日本のメロディーで構成されたコンサートです。なんとオープニングは「赤とんぼ」。童謡から始まりました。ゲストの伊東恵里さん、堀内敬子さんの澄み通った第一声に、「むむ。これはただものではないステージが始まるな」と、期待がふくらみます。懐かしい歌の数々が、プロにかかるとこんなに生まれ変わるとは…。岡さんも好きだという曲「この道」(北原白秋/山田耕作)では、自分の家族のことを思い出して、ぽろりと泣いてしまいました。恥ずかし…。


その次は「浅草オペラ」コーナー。このジャンルは今日初めて知ったのですが、とってもハマりました。 大正時代に入ってきた、カルメンやボッカチオといったオペラ・オペレッタの曲に、庶民的な日本語詞をつけた歌のことで、当時の歓楽街だった浅草で盛り上がったそうです。「ベアトリ姐ちゃん」というのは、原曲の「ベアトリーチェ」を訳したものだったとは初耳。確かにすごいセンスだわ。 当時は、少年配達夫が自転車に乗りながらオペラのメロディーを口ずさむほど、広く親しまれたとのことです。今よりよっぽど豊かな文化が花開いた時代だったんですね。でも関東大震災によって東京が壊滅的な打撃を受けたことにより、浅草オペラの灯も消えてしまいました。


このコーナーでは岡さん、ここぞとばかり声を伸び伸びと張り上げて歌っていました。オペラですもの、歌い甲斐があるでしょうね。一時の不調を経て、もともとあった声のつやに気持ちのひだが加わったような感じ。うまく言えないですが、「復活」というよりは、進化した新しい歌声に出合った気がしました。


余談ですが、その昔、帝国劇場でもオペラが上演されていたそうです。東宝に歌劇部というのがあったそうな。でも残念ながら、あまり流行らなかったらしい…。


さて「古賀政雄コーナー」を経て、2幕はオールディーズと歌謡曲メドレー。「VACATION」では、客席から紙テープがしゅるしゅる~と飛びました。実はこれが、タナボタ企画から観客へのお願い  だったのです。私は結局、紙テープを持って行きませんでした…。小心者でごめんなさい。盛り上げてくれた観客の方、ありがとう。岡さんはステージに届いた紙テープを取り上げて「なんだか、五色そうめんみたい…」とつぶやいてました。


歌謡曲コーナーでは「赤いスイートピー」「いつでも夢を」「いとしのエリー」など親しみある作品が続きます。ミュージカルの人たちが歌うと、歌詞に感情移入したくなりますね。


ラストの曲で、また不意をつかれました。林さん、岡さん、伊東さん、堀内さんの4人で「今日の日はさようなら」を丁寧に歌ってくれたのです。うわーん。なぜ、また泣かせるのさ…。こども時代、みんなこれ歌いましたよね(いまの子はどうだか知らないけど)。幼いころの思い出も、彼らに歌ってもらうと、新しい発見があります。ただ昔を懐かしむだけじゃなくて、今、この日を大切にしなくちゃという気持ちになるから不思議です。


この公演で一番心に残った出演者は、林アキラさん。小田和正の「言葉にできない」を歌っている姿に、引き込まれました。温かくて、もの悲しくて、でもずっと聞いていたいような…。もし、丸の内や大手町のビジネス街に突然林さんが現れてこれを歌いだしたら、通りかかったサラリーマンは皆立ち止まって泣いてしまうんじゃないだろうか、なんて考えながら聴いていました。ご存じのとおり、彼は元・うたのお兄さんで、「レ・ミゼラブル」の司教役、「屋根の上のヴァイオリン弾き」の本屋役などでミュージカルファンにはおなじみの方です。


その林さん、「涙そうそう」(夏川りみ)では、ふと上を向いて目をしばたいていました。涙をこらえているような…。けれどさすがプロ、涙声にはなりません。その後のMCも明るい声で通していました。でも、上を見ながらあのとき、どんな想いが込みあげていたのでしょうか。

明日は、衣装のことなど。