『風を結んで』(2)役者の持ち味を生かした登場人物 | ■RED AND BLACK extra■舞台と本の日記

『風を結んで』(2)役者の持ち味を生かした登場人物

白状すると、このお芝居、冒頭から魅了されたわけではないのだ。お笑い担当の平吾たち3人が酒の取り合いをする場面は、今ひとつ弾けっぷりが足りないように感じて、気が乗らなかった。お笑いで言えば「ツカミ」が弱かった感じ。


それが、1幕途中からは昨日書いたように登場人物に引き込まれ、2幕からは物語を前へ進める役者の力に圧倒され、気がついたらあっという間にカーテンコールだった。


こう感じるのはおそらく、役者それぞれの個性を生かして登場人物が設定されていたからではないだろうか。公演パンフレットで役者の誰かが「(TSミュージカル主宰の)謝先生に『あなたにぴったりの役だから』と言われて、やってみようと思った」というようなことをコメントしていたが、確かに、役者の持ち味が芝居に生きているなと観ていて思った。


例えば、旗本・平吾を演じる坂元健児さん。新しい仕事で生きていこうと浪人武士たちを鼓舞するひたむきさは、『キャンディード』のカカンボや『ミス・サイゴン』のクリスで見せた、明るく力強いキャラクターにぴったりだ。(クリスは最後苦悩するけれど、あきらめず道を切り開こうとする意思は、平吾と共通していると思う)


そして武士のまま死ぬことを選ぶ剣豪・右近が、決闘のとき、刀を振り下ろす力もなく崩れ落ちる場面は、いうまでもなく『レ・ミゼラブル』ジャベールの姿が重なった。演じるのはどちらも、今拓哉さん。「俺は用なしの人間なのだと思い知らされたそのときから、剣を持っても力が入らないのだ!」と我を失う武士の最期は、「心震えるのだ 俺の世界消え失せた」と嘆いて身投げした警官に通じる。「自殺」に至る気持ちを繊細に描写していた今ジャベールの演技を思い出したら、右近にちょっと惚れかかった自分のあさましさが恥ずかしくなってしまった…。


余談だけど、公演後のアンケートには
「今後TSミュージカルに出演して欲しい役者を教えてください。(その理由)」
とあった。「理由」が大切なわけ、この舞台で分かった気がする。